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ルビの語源は宝石のルビー?!

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ルビー

読めない漢字や、通常とは違う読ませ方をしたい文字に書き添えるふりがな---ルビ。
片仮名で書くということは外国由来の言葉なのでしょうか。
今回はルビの語源についてお話します。

ルビの語源

そもそもルビという言葉が日本で使われ出したのは明治時代のこと。活版印刷の用語として使われていました。
活版印刷とは「活字」と呼ばれる鉛でできた文字を一文字ずつ拾って組み合わせ、判子の要領で紙に押し当てて転写する印刷方法です。
当時の日本で一般的に使用されたのは5号活字と呼ばれる約4mmほど大きさの活字でした。
この「号」と呼ばれる単位は日本独自の単位で、活字の大きさは号数が大きいほど小さくなります。
5号活字にふりがなを振る際に使われていた活字は7号活字。約2mmほどの大きさですから通常の活字の半分くらいの大きさでふりがなを振っていたことになります。

さて、明治時代は文明開化の時代でもありました。
西洋の文明を積極的に取り入れる動きが最も高かった時代といえるでしょう。
日本がお手本とした国の一つであるイギリスでは、活字をポイントという単位で表わし、その大きさごとに宝石の名前を付けていました。
4.5ポイントの活字をダイヤモンド、5ポイントの活字をパールといった具合です。

そしてポイントに換算すると5.25ポイントとなる7号活字に最も近しい活字が5.5ポイントのルビーでした。
日本ではイギリスを真似して7号活字をルビ活字と呼ぶようになりました。
ルビ活字で印刷されたふりがなをルビと呼ぶうちに、いつしかルビはふりがなそのものを表わすようになったのです。

世界の活字の名称

実は活版印刷は羅針盤、火薬と並んで三大発明と呼ばれ、ルネサンス期のヨーロッパに大きな社会的変革をもたらしました。
活版印刷が聖書を爆発的に普及させ、宗教改革の一端を担ったといえばその重要性が理解できるでしょう。
そんな活版印刷ですからイギリス以外の国も活字に独自に名前を付けていました。
ここでは、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツの名前を紹介します。

ポイント mm イギリス アメリカ フランス ドイツ
1 0.353 American
(アメリカ人)
Achtelpetit
(Petitの1/8)
1 1/2 0.529 German
(ドイツ人)
Achtelcicero
(Ciceroの1/8)
2 0.706 Saxon
(サクソン人)
Non Plus Ultra
(先には何もない)
Viertelpetit
(Petitの1/4)
2 1/2 0.882 Norse
(ノルウェー人)
Microscopique
(微視的)
Microscopique
(微視的)
3 1.058 Minikin
(小さい)
Excelsior
(気品ある)
Diamant
(ダイヤモンド)
Brillant
(金剛石)
Viertelcicero
(Ciceroの1/4)
3 1/2 1.235 Ruby
(ルビー)
Brilliant
(光り輝く)
4 1.411 Brilliant
(光り輝く)
Brilliant
(光り輝く)
Perle
(真珠)
Diamant
(ダイアモンド)
Halbpetit
(半分のPetit)
4 1/4 1.499 Gem
(宝玉)
4 1/2 1.588 Diamond
(ダイヤモンド)
Diamond
(ダイヤモンド)
5 1.764 Pearl
(真珠)
Pearl
(真珠)
Parisienne
(パリジェンヌ)
Sédanoise
(新約聖書のために作った小さい活字)
Perl
(真珠)
5 1/2 1.94 Ruby
(ルビー)
Agate
(瑪瑙)
6 2.117 Nonpareil
(無比の)
Nonpareil
(無比の)
Nonpareille
(比類のない)
Nonpareille
(比類のない)
6 1/2 2.293 Emerald(エメラルド) Minionette
(繊細な)
Insertio
(付着)
7 2.469 Minion
(お気に入り)
Minion
(お気に入り)
Mignonne
(キュートな)
Kolonel
(大佐)
7 1/2 2.646 Petit-texte
(小さいtexte)
8 2.822 Brevier
(8号活字)
Brevier
(8号活字)
Gaillarde
(ガイヤルド=舞曲)
Petit-texte
(小さいtexte)
Petit
(小さな)
Jungfer
(乙女)
9 3.175 Bourgeois
(ブルジョア)
Bourgeois
(ブルジョア)
Petit-romain
(小さいromain)
Gaillarde
(ガイヤルド=舞曲)
Bourgeois
(ブルジョア)
Borgis
(9号活字)
10 3.528 Long Primer
(ロングプライマー=入門書)
Long Primer
(ロングプライマー=入門書)
Philosophie
(哲学)
Korpus
(コーパス)
Garmond
(ギャラモンの作った活字)
11 3.881 Small Pica
(小さいPica)
Small Pica
(小さいPica)
Cicéro
(シセロ=文字の大きさの単位)
Rheinländer
(ラインの民)
Discendian
12 4.233 Pica
(パイカ=長さの単位)
Pica
(パイカ=長さの単位)
St.-Augustin
(セントオーガスティン)
Cicero
(シセロ=文字の大きさの単位)
14 4.939 English
(英国人)
English
(英国人)
Gros-texte
(大きいtexte)
Mittel
(中間)
15 5.292 ros-texte
(大きいtexte)
16 5.644 Columbian Exchange
(コロンブス交換)
Gros-texte
(大きいtexte)
Tertia
(第三の)
18 6.35 Great Primer
(すばらしい入門書=聖書等の大判印刷用活字)
Great Primer
(すばらしい入門書=聖書等の大判印刷用活字)
Gros-romain
(大きいRomain)
1 1/2 Cicero
(1.5倍のCicero)
20 7.056 Paragon
(すばらしい手本)
Paragon
(すばらしい手本)
Petit-parangon
(小さいparangon)
Text
(文章)
Secunda
(第2の)
22 7.761 Double Small Pica
(2倍の小さいPica)
Double Small Pica
(2倍の小さいPica)
Gros-parangon
(大きいparangon)
24 8.467 Double Pica
(2倍のPica)
Double Pica
(2倍のPica)
Palestine
(パレスチナ)
Doppelcicero
(2倍のCicero)
28 9.878 Double English
(2倍のEnglich)
Double English
(2倍のEnglich)
Petit-canon
(小さいcanon)
Doppelmittel
(2倍のMittel)
30 10.583 Five-line Nonpareil
(5行分のNonpareil)
32 11.289 Double Columbian
(2倍のColumbian)
Kleine Kanon
(小さいKanon)
Doppeltertia
(2倍のTertia)
36 12.7 Double Great Primer
(2倍のGreat Primer)
Double Great Primer
(2倍のGreat Primer)
Trismégiste
(トリスメギストス)
Kanon
(規範)
40 14.111 Double Paragon
(2倍のParagon)
Doppeltext
(2倍のtext)
Große Kanon
(大きいKanon)
42 14.817 Seven-line Nonpareil
(7行分のNonparareil)
Große Kanon
(大きいKanon)
44 15.522 Canon
(規範)
Gros-canon
(大きいcanon)
Missal
(ミサ典書)
48 16.933 Canon
(規範)
Four-line Pica
(4行分のPica)
French canon
(フランスのcanon)
Gros-canon
(大きいcanon)
Kleine Missal
(小さいMissal)
54 19.05 Missal
(ミサ典書)
56 19.756 Double-canon
(2倍のcanon)
60 21.167 Five-line pica
(5行部のPica)
Große Missal
(大きいMissal)
66 23.283 Große Sabon
(大きいSabon)
72 25.4 Six-line pica
(6行分のPica)
Inch
(インチ)
Double-trismégiste
(2倍のtrismégiste)
Sabon
(ギャラモンを元に作られた活字)
Sechscicero
(6Cicero)
Kleine Sabon
(小さいSabon)
84 29.633 Seven-line pica
(7行部のPica)
Siebencicero
(7Cicero)
Große Sabon
(大きいSabon)
88 31.044 Triple-canon
(3倍のcanon)
96 33.867 Eight-line pica
(8行分のPica)
Grosse-nonpareille
(大きいnonpareille)
Achtcicero
(8Cicero)
Real(リアル)
100 35.278 Moyenne de fonte
(平均的なフォント)
108 38.1 Nine-line pica
(9行文のPica)
Imperial
(帝国)

 

こうしてみると、小さい活字は宝石やそれを形容する言葉が使われていることがわかります。
また、印刷にまつわる単位を元にした言い方や、人を指す言葉が使われていることも面白いですね。
キリスト教や聖書に関わることを活字のサイズの表し方にしているのも興味深いです。
また、Garmond(ギャラモン)のような今でもよく使われるフォントは、活字の名前そのものが大きさを表す基準になっていました。それだけ世に浸透した活字だったのです。

ルビの振り方

活版印刷の世界では、ルビを付けることを「ルビを組む」と表現します。活字を拾って組み合せるので「ルビを組む」です。
一方、一般的に私たちがふりがなを振るときは「ルビを振る」と表現します。おそらくふりがなという表現に引っ張られて「振る」というようになったのでしょう。
少年漫画や少女漫画はそのほとんどが、全ての漢字にルビを振られています。これを「総ルビ」といいます。
対して、小説など文中の一部の漢字にだけ付ける読み仮名を「ぱらルビ」と言います。ぱらぱらとルビが振られるのでぱらルビというわけです。

 

参考:一般社団法人 日本印刷産業連合会 印刷用語集 / SEZAX なるほど! 印刷用語の語源 / Traditional point-size names / Eberhand Dilba Typographie-Lexikon / 朗文堂

活版印刷 紙成屋
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