TOP / 言葉 2016.05.24

バイト敬語に物申す!「いらっしゃいませ、こんにちは」

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こんにちは実はこのシリーズは広報宣伝飲み会の矢後ブチョーの一言から始まりました。
はたして矢後ブチョーが望んでいた記事になっているのかどうかは分かりませんが、好きなように書き散らしていきます!

「いらっしゃいませ、こんにちは」は間違っているのか

「いらっしゃいませ、おはようございます」
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「いらっしゃいませ、こんばんは」

これらはバイト敬語として誤った表現とされています。
正しくは

「いらっしゃいませ」

のみ。極めて簡潔です。

「いらっしゃいませ」は投げっぱなし?

そもそも「いらっしゃいませ」は返答を必要としない挨拶です。
あえて答えるとすれば「どうも」くらいでしょうか。面と向かって言われると、大抵は微笑んで目礼で終わります。
そう考えると、「いらっしゃいませ」はかなり特殊な挨拶であるように思えてきます。
また、海外では(私の知る限りなのでサンプル数としては少ないですが)呼びこみ以外で店員が大きな声を上げてお客様を迎え入れる習慣はありません。
レジにおいても「こんにちは」や「調子はいかが?」に始まり「よい一日を」や「さようなら」という会話が店員とお客の間で繰り広げられます。
「いらっしゃいませ」のような相手が答えないことが前提であるような言葉はないのです。

「いらっしゃいませ」とは何ぞや

「いらっしゃいませ」はいつ頃から使われだした言葉なのでしょうか。一説には江戸時代中期から後期にかけて発生した言葉だとされています。
そして、江戸時代後期の人情本『春色梅児誉美』にはこんな一節があります。
登場人物である丹次郎とお長がばったりと顔を合わせ、ちょっとそこのうなぎ屋へ寄ろうかというシーンです。


うなぎや 「いらツしやいまし。お二階へいらツしやいまし。お多葉粉盆(たばこぼん)をおあげ申なヨ。ト


うなぎ屋の「いらっしゃいまし」は今と変わらない使われ方ですね。
こうして後の言葉が続いていると「どうぞ入ってくださいな」という意味合いが強いことが分かります。
昔は、日本語の「入る」の尊敬語は「入らせらる(いらせらる)」と言いました。
この「入らせらる」は「入る」だけでなく「行く」「来る」「居る」の尊敬表現でもあります。
つまり、「いらっしゃいませ」は「入ってください」「(二階などへ)行ってください」「来てください」「居てください」を内包した言葉だったのです。

「いらっしゃいませ」の返答

さて、「いらっしゃいませ」の成り立ちは分かりましたが、残念ながら返答の挨拶がない理由は見つかりませんでした。
想像力を膨らませて考えてみます。

「いらっしゃいませ」の「ませ」は丁寧語「ます」の命令形です。
命令形の返答は「はい」か「いいえ」の二択ですね。

呼び込みの場合はいくら「いらっしゃいませ」と叫ばれたところで「いいえ」の人は無視して素通りしていきます。
「はい」の人もまさか呼び込みの声が聞こえた20メートルほど先の地点で「はーい!」と叫んでお店に入ることはないでしょう。お店に入った行動そのものが返答です。

ではお店の中で言われる場合はどうでしょう。
この場合も入った瞬間に「やっぱやめときます」と言う以外で「いいえ」を答えることはありません。
そして、入った人が「はい」と言ったところで来てやったぞ感が出て気まずいです。と、いうより会話が続きません。

ん? 会話が続かない?

そういえば時代劇なんかでは「へい、いらっしゃい!何になさいましょう?」という威勢の良いおじさんや「いらっしゃいまし。お待ちしておりました。」という優しげな看板娘なんかが登場しますが、いらっしゃいませ+αの投げかけから会話が発生するような気がします。
「いらっしゃいませ」完結ではないのですね。では何故、「いらっしゃいませ、こんちには」はバイト敬語なのでしょうか。

心持ちと距離感

「いらっしゃいませ、こんにちは」がバイト敬語である理由は二つあると私は考えています。
まずは「心持ち」です。
「こんにちは」の返答は、皆様ご存知の通り「こんにちは」です。
例え見知らぬ人に道で「こんにちは」と声を掛けられたとて「こんにちは」と返しますし、子どもが元気よく「こんにちは」と挨拶をしてくれれば微笑ましく思うものです。
しかしながら、「いらっしゃいませ、こんにちは」の今日の使われ方を見るとどうも返答を必要としない場合が多い。
店の扉が開くと同時に「いらっしゃいませ、こんにちは」の声が響き、別の店員へ伝播し、お客と目を合わせることすらない。
返答を要するはずの「こんにちは」が浮いたまま消えていってしまいます。

逆に、時代劇の例を見てみると、店員はお客の顔を見て、認識し、一人の店員と一人のお客として言葉のキャッチボールを始めます。
店員とお客とがお互いを認識した上での挨拶であれば、「こんにちは」が浮いたまま消えることはありませんし、「いらっしゃいませ、こんにちは」の違和感は薄れることでしょう。「いらっしゃいませ、こんにちは」は「どうぞお入りください。今日はお元気ですか。」という意味なのですから。

もう一つは「距離感」です。
「こんにちは」という言葉は、店員とお客の関係を考えるとどうも近すぎると感じる方もいるのではないでしょうか。
「いらっしゃいませ、おはようございます」はなんとなく許せても、「こんにちは」と「こんばんは」には違和感を感じる。
これは、「おはようございます」が「おはよう」の丁寧語であるのに対し、「こんにちは」と「こんばんは」には丁寧表現がないことが原因です。
確かに、執事やメイドが「こんにちは、ご主人様」「こんばんは、お嬢様」などというのは想像し辛いですね。
丁寧表現である「いらっしゃいませ」と通常の挨拶である「こんにちは」や「こんばんは」を一緒に並べて言うのはちぐはぐであるのもバイト敬語である所以ではないでしょうか。

「いらっしゃいませ、こんにちは」に流れる不器用な心持ち

「いらっしゃいませ、こんにちは」は不器用なのです。よりお客様に近付きたい、身近な存在でありたいとする接客態度が生んだ言葉なのです。
他のバイト敬語とは違い、文法的に間違っているということはありません。
ただなんとなく当初の気持ちが忘れ去られ、形骸化し、あんなに近付きたかったお客様に倦厭される・・・涙が出てきますね。(´;ω;`)ウッ
でも、この言葉には救いがあります。使い方を少し変えるだけで、当初の熱意を取り戻し、息を吹き返すのです。

例えば、夜。行きつけの居酒屋で。
「いらっしゃいませ!あ、こんばんは、○○さん。今日もお疲れまです」
近しい関係においては「こんにちは」や「こんばんは」に違和感を覚える方は少なくなります。
何事もそうですが、挨拶は特に、相手を認識し、その相手のためだけに投げかける言葉でありたいですね。

 

追伸。
私自身は、メイド喫茶の「おかえりなさいませ、ご主人様」という言葉を初めて聞いた時、出来るルーキー感に痺れ、恐れおののきました。

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